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味の記憶がつなげてくれたご縁
20年越しの再会から始まった

ひとつの “矢” の物語

第1章:20年越しの “あの味” との再会

「大繁盛じゃなくていい、自分の味でのんびりやりたいんです」
そんな相談から、このプロジェクトは始まりました。

料理人として長年、数々の厨房を任されてきた克也さん。
「そろそろ自分の店を持ちたい」という想いを胸に、ついに独立を決意されたタイミングでした。

話を聞く中で出てきた、ある店の名前。
その瞬間、強い“デジャヴ”のような感覚が走りました。

──それは、20年前に夫婦で通っていた “行きつけ” だった店。
当時の思い出とともに蘇る味。その料理を作っていたのが、まさに克也さんだったのです。

初対面のはずが、味を通して出会っていた。
そんな縁を感じる再会から、すべてが動き始めました。

第2章:“一の矢” という名に込められた意味

店名の候補として挙がったのは、「一の矢」。
克也さんの名前の候補に「一矢(かずや)」があったという小さなエピソードが、その由来です。

“最初に放つ矢”、“物事の始まりや困難を乗り越える際の第一歩”。

そうした意味を持つこの言葉が独立という節目にぴったりと重なりました。

克也さんの言葉や立ち姿にふれていく中で、自然と浮かんできたのが

    「これが“自分の一発目”なんです」
    「しっかり届くように、ぶれずにいきたいと思ってます」

そんな想いが、この店名に滲んでいるように感じられたのです。
だからこそ、ロゴにも “矢” をモチーフにすることを決めました。

第3章:ロゴに込めた “矢” のモチーフ

ロゴデザインでは、「芯の強さ」と「潔さ」を大切にしました。

中華の器に多い「八角形」や、“矢” を象徴するフォルムを要素として取り入れ、力強い赤のラインを一筋に走らせた構成です。

最初に放たれる “矢” として、真っ直ぐに飛ぶ意思を表現しつつ、
どこか懐かしさや落ち着きを感じさせるトーンに整えました。

中華らしさを保ちつつも、やりすぎないバランス。
記憶に残ることと、受け入れられやすさを両立させたロゴです。

第4章:“中華だけど中華すぎない” 外観とウインドウ

立地は住宅街の角地。冬には雪が積もる地域でもあります。
その環境の中で「中華らしさは伝えつつも、派手すぎない外観にしたい」という要望がありました。

ベースカラーは、ネイビー。
赤いロゴを引き立てる差し色として、落ち着いた佇まいに。

大きく取った2面の窓は、交差点の両側からロゴが視認できるよう設計。
外観全体が、看板のような役割を果たします。

熱気を感じさせつつ、街並みになじむ——
そんな絶妙なグラデーションを目指しました。

第5章:白いショップカードと、ネイビーの のれん

「この味を知る人には、説明はいらない」
そう考えて、ショップカードはロゴだけを配したシンプルな構成に。

真っ白なベースに、赤のロゴだけを配置。
一見無口ですが、視覚的に強い印象を残します。

のれんにも、赤ではなくネイビーを採用。
落ち着いた雰囲気と、店主の丁寧な姿勢が自然と伝わるようにデザインしています。

店舗のトーンが、カードや布にもつながっている。
細部の積み重ねが、ブランドイメージをつくっていきます。

第6章:“あのロゴ=あの味” という記憶設計

看板や外観、カードに繰り返し登場するロゴ。
この反復が、「記憶の定着」に繋がります。

──ロゴを見たら、あの味を思い出す。
──味を思い出したら、あのロゴが浮かぶ。

そんな連鎖を意図して、各所に配置しました。
ただ派手に目立たせるのではなく、“自然と目に入る” ことを重視。

無意識のうちに、記憶の中で矢が飛び続けていく。
それが、デザインに託した願いです。

第7章:この仕事が、特別だった理由

今回のプロジェクトは、ロゴを起点に全体を設計しています。
外観、カード、のれん──それぞれの要素が一本の矢のように、ブランドの方向を定めていく。

そして、個人的にもこの仕事は特別なものでした。

“この年齢から始める” ということのリアルさ。
克也さんの決意に触れる中で、それはまるで、自分自身の姿と向き合うような感覚でもありました。

若くしての挑戦ではなく、自分の答えを持ってからの一歩。
あのとき、自分もそうだった。
だからこそ、深く共感できたのだと思います。

味をきっかけに再会し、“矢” を象徴に未来を描く。
そんな物語に関われたことを、心から光栄に思います。

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